心臓カテーテルに関する情報



心筋梗塞について

 

心筋梗塞は,心筋虚血と一致する臨床状況で心筋壊死が生じた場合と定義される(1 )。これらの条件は,心筋バイオマーカー (心筋トロポニン[cTn]が望ましい)が基準範囲上限値(URL)とする99パーセンタイルを超えて上昇し,かつ以下のうち少なくとも1つが認められた場合に満たされる可能性がある。

 

虚血の症状

新たな虚血を示唆する心電図変化(有意なST/T変化または左脚ブロック)

異常Q波の発生

新たな心筋の喪失または新たな局所壁運動異常を示す画像所見

血管造影または剖検での冠動脈内血栓の所見

経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術の施行中および施行後の心筋梗塞の診断と,突然死の原因としての心筋梗塞の診断では,わずかに異なる基準が用いられる。

 

心筋梗塞は,病因と状況に基づいて5つの病型に分類することも可能である:

 

1型:主要な冠動脈イベント(例,プラークの破裂,びらん,または亀裂;冠動脈解離)に起因する虚血により自然に生じた心筋梗塞

2型:酸素需要の増加(例,高血圧)または酸素供給の低下(例,冠動脈攣縮,冠動脈塞栓症,不整脈,低血圧)に起因する虚血

3型:予期せぬ突然心臓死に関連するもの

4a型:経皮的冠動脈インターベンションに関連したもの(心筋梗塞の徴候および症状が認められ,cTn値が99パーセンタイルURL値の5倍を上回る)

4b型:確認されたステント血栓症に関連したもの

5型:冠動脈バイパス術に関連したもの(心筋梗塞の徴候および症状が認められ,cTn値が99パーセンタイルURL値の10倍を上回る)

梗塞部位

心筋梗塞では主に左室が侵されるが,心筋損傷が右室または心房に及ぶこともある。

 

右室梗塞は通常,右冠動脈または優位な左回旋枝の閉塞により生じ,右室充満圧の上昇を特徴とし,しばしば重度の三尖弁逆流 および心拍出量の減少を伴う。

 

下後壁梗塞では,約半数の患者である程度の右室機能障害が生じ,1015%で血行動態の異常が認められる。下後壁梗塞の患者で頸静脈圧の上昇と低血圧またはショックがみられる場合は,右室機能障害を考慮すべきである。左室梗塞を合併した右室梗塞では,死亡リスクが有意に上昇する。

 

前壁梗塞は下後壁梗塞に比べて広範となり,予後不良となりやすい傾向がある。通常は左冠動脈,特に前下行枝の閉塞によるもので,下後壁梗塞は右冠動脈または優位な左回旋枝の閉塞を反映する。

 

梗塞範囲

梗塞には以下のものがある:

 

貫壁性

非貫壁性

貫壁性梗塞は心外膜から心内膜までの心筋全層が侵されたもので,通常は心電図上の異常Q波を特徴とする。

 

非貫壁性(心内膜下を含む)梗塞は,心室壁全層までは及ばず,ST部分およびT波(ST-T)の異常のみを生じる。心内膜下梗塞は通常,壁張力が最も高く,心筋灌流が循環動態変化の影響を最も受けやすい心筋の内側3分の1に生じる。この種の梗塞は低血圧が遷延した後に生じることがある。

 

心室壁における壊死の深さは臨床的には正確に測定できないため,梗塞は通常,心電図上のST上昇またはQ波の有無によりSTEMINSTEMIに分類される。壊死心筋量は,CK値上昇の程度および持続時間,あるいはより一般的に測定される心筋トロポニンのピーク値から概算できる。

 

ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI,心内膜下心筋梗塞)は,急性のST上昇を伴わない心筋壊死である(血中心筋マーカー で証明され,トロポニンIまたはトロポニンおよびCKが上昇する)。ST低下,T波逆転,またはその両方などの心電図変化が現れることがある。

 

 

ST上昇型心筋梗塞(STEMI,貫壁性心筋梗塞)は,心電図変化としてニトログリセリンで速やかに解消されないST上昇を伴う心筋壊死である。トロポニンIまたはトロポニンTCKが上昇する。

 


心臓カテーテル関連 保険算定

K549 経皮的冠動脈ステント留置術

  1 急性心筋梗塞に対するもの

34,380

  2 不安定狭心症に対するもの

24,380

  3 その他のもの

21,680

注 手術に伴う画像診断及び検査の費用は算定しない。

 

通知

() 一方向から造影して 75%以上の狭窄病変が存在する症例に対して当該手術を行った場 合に算定する。なお、医学的根拠に基づきこれ以外の症例に対して算定する場合にあっ ては、診療報酬明細書の摘要欄にその理由及び医学的根拠を詳細に記載すること。

 

() 「1」の急性心筋梗塞に対するものは、次のいずれにも該当する急性心筋梗塞患者に 対して実施した場合に算定する。 ただし、 冠動脈インターベンション治療( 区分番号

 

「K546」から「K550-2」まで)又は冠動脈バイパス術(区分番号「K552」 及び「K552-2」)後 24 時間以内に発症した場合は「1」の急性心筋梗塞に対する ものは算定できない。なお、診療報酬明細書の摘要欄にアからウまでのそれぞれについ て、要件を満たす医学的根拠について記載すること。

 

ア 心筋トロポニンT(TnT)又は心筋トロポニンIが高値であること又は心筋トロポ ニンT(TnT)若しくは心筋トロポニンIの測定ができない場合であってCK-MB が高値であること。なお、診療報酬明細書の摘要欄に測定項目及びその値について記 載すること。

 

イ 以下の(イ)から(ホ)までのいずれかに該当すること。なお、診療報酬明細書の 摘要欄に該当項目及びその所見の得られた時刻を記載すること。

 

() 胸痛等の虚血症状

 

() 新規のST-T変化又は新規の左脚ブロック

 

() 新規の異常Q波の出現

 

() 心臓超音波検査又は左室造影で認められる新規の心筋の可動性の低下又は壁運 動異常

 

() 冠動脈造影で認められる冠動脈内の血栓

 

ウ 以下の(イ)又は(ロ)のいずれかに該当すること。なお、診療報酬明細書の摘要 欄に該当項目、発症時刻、来院時刻及び再開通した時刻を記載すること。

 

() 症状発現後 12 時間以内に来院し、来院からバルーンカテーテルによる責任病変 の再開通までの時間(door to balloon time)が 90 分以内であること。

 

() 症状発現後 36 時間以内に来院し、心原性ショック(Killip 分類 class Ⅳ)で あること。

 

() 「2」の不安定狭心症に対するものは、次のいずれにも該当する不安定狭心症患者に 対して実施した場合に算定する。なお、診療報酬明細書の摘要欄にアからウまでのそれ ぞれについて、要件を満たす医学的根拠について記載すること。

 

ア 日本循環器学会の承認を得た非ST上昇型急性冠症候群ガイドラインにおける不安 定狭心症の分類で重症度 classⅠclassⅡ又は classⅢであること。なお、診療報酬 明細書の摘要欄に重症度及びその医学的根拠を記載すること。

 

イ 日本循環器学会の承認を得た非ST上昇型急性冠症候群ガイドラインにおける急性 冠症候群の短期リスク評価が高リスク又は中等度リスクであること。なお、診療報酬 明細書の摘要欄に短期リスク評価及びその医学的根拠を記載すること。

 

ウ 来院から 24 時間以内(院内発症の場合は症状発現後 24 時間以内)に当該手術を開 始すること。なお、診療報酬明細書の摘要欄に来院時刻及び手術開始時刻を記載する こと。

 

() 「3」のその他のものは、原則として次のいずれかに該当する病変に対して実施した場 合に算定することとし、診療報酬明細書の摘要欄にアからウまでのいずれかの要件を満た す医学的根拠について記載すること。なお、ウの病変に対して実施する場合は、循環器内 科又は心臓血管外科を担当する医師が複数名参加するカンファレンス等により医学的な必

 

要性を検討すること。また、実施の医学的な必要性及び検討の結果を診療録及び診療報酬 明細書の摘要欄に記載すること。

 

ア 機能的虚血の原因である狭窄病変

 

イ 区分番号「D206」に掲げる心臓カテーテル法における 90%以上の狭窄病変

 

ウ その他医学的必要性が認められる病変

 

() ()のア及びイに該当する急性心筋梗塞患者に対して、()のウを満たして当該手術 を実施した場合は、「2」に準じて算定する。

 

() 次の表に該当する場合は、経皮的冠動脈形成術用カテーテル及び冠動脈用ステントセ ットに係る費用は、それぞれ次の表に示す本数及びセット数を算定する。なお、医学的 根拠に基づきこれ以上の本数を算定する場合にあっては、診療報酬明細書の摘要欄にそ の理由及び医学的根拠を詳細に記載すること。

 

病変箇所数           経皮的冠動脈形成術用

カテーテル算定本数           冠動脈用ステントセット

算定セット数

完全閉塞病変の場合           1箇所    2本以下              1セット以下

2箇所    3本以下              2セット以下

完全閉塞病変以外の場合    1箇所    1本以下              1セット以下

2箇所    2本以下              2セット以下

() 同一医療機関において、同一患者の同一標的病変に対して区分番号「K546」経皮 的冠動脈形成術、区分番号「K547」経皮的冠動脈粥腫切除術、区分番号「K548」 経皮的冠動脈形成術(特殊カテーテルによるもの)又は区分番号「K549」経皮的冠 動脈ステント留置術を行う場合の合計回数は、5年間に2回以下を標準とする。なお、 医学的根拠に基づきこれを超える回数の手術を実施する場合にあっては、以下の事項を 診療報酬明細書の摘要欄に詳細に記載すること。

 

ア 過去の実施時期

 

イ 実施した手術及びそれぞれの実施時において使用した経皮的冠動脈形成術用カテー テル、アテレクトミーカテーテル、高速回転式経皮経管アテレクトミーカテーテル、 エキシマレーザー血管形成用カテーテル及び冠動脈用ステントセットの使用本数

 

ウ 今回、経皮的冠動脈ステント留置術を繰り返して実施する理由及び医学的根拠

 

() 当該手術が、日本循環器学会、日本冠疾患学会、日本胸部外科学会、日本心血管イン ターベンション治療学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本集中治療医学 会、日本心臓リハビリテーション学会及び日本不整脈心電学会の承認を受けた「急性冠 症候群ガイドライン(2018 年改訂版)」又は「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン

 

2018 年改訂版)」に沿って行われた場合に限り算定する。

 

 

D206 心臓カテーテル法による諸検査(一連の検査について)

  1 右心カテーテル

3,600

  2 左心カテーテル

4,000

 

1 新生児又は3歳未満の乳幼児(新生児を除く。)に対して当該検査を行った場 合は、新生児加算又は乳幼児加算として、1については10,800点又は3,600点を、2については12,000点又は4,000点を、それぞれ所定点数に加算する。

 

2 当該検査に当たって、卵円孔又は欠損孔を通しての左心カテーテル検査、経中 隔左心カテーテル検査(ブロッケンブロー)、伝導機能検査、ヒス束心電図、診断ペーシング、期外(早期)刺激法による測定・誘発試験、冠攣縮誘発薬物負荷試験又は冠動脈造影を行った場合は、卵円孔・欠損孔加算、ブロッケンブロー加算、伝導機能検査加算、ヒス束心電図加算、診断ペーシング加算、期外刺激法加算、冠攣縮誘発薬物負荷試験加算又は冠動脈造影加算として、それぞれ800点、2,000点、400点、400点、400点、800点、800点又は1,400点を加算する。

 

3 血管内超音波検査又は血管内光断層撮影を実施した場合は、血管内超音波検査 加算又は血管内光断層撮影加算として、400点を所定点数に加算する。

 

4 冠動脈血流予備能測定検査を実施した場合は、冠動脈血流予備能測定検査加算 として、600点を所定点数に加算する。

 

5 別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等 に届け出た保険医療機関において、血管内視鏡検査を実施した場合は、血管内視 鏡検査加算として、400点を所定点数に加算する。

 

6 同一月中に血管内超音波検査、血管内光断層撮影、冠動脈血流予備能測定検査 及び血管内視鏡検査のうち、2以上の検査を行った場合には、主たる検査の点数 を算定する。

 

7 カテーテルの種類、挿入回数によらず一連として算定し、諸監視、血液ガス分 析、心拍出量測定、脈圧測定、肺血流量測定、透視、造影剤注入手技、造影剤使 用撮影及びエックス線診断の費用は、全て所定点数に含まれるものとする。

 

8 エックス線撮影に用いられたフィルムの費用は、区分番号E400に掲げるフ ィルムの所定点数により算定する。

 

9 心腔内超音波検査を実施した場合は、心腔内超音波検査加算として、400点を所定点数に加算する。

 

通知

() 心臓カテーテル検査により大動脈造影、肺動脈造影及び肺動脈閉塞試験を行った場合 においても、心臓カテーテル法による諸検査により算定するものとし、血管造影等のエ ックス線診断の費用は、別に算定しない。

 

() 心臓カテーテル法による諸検査のようなカテーテルを用いた検査を実施した後の縫合 に要する費用は、所定点数に含まれる。

 

() 「1」の右心カテーテル及び「2」の左心カテーテルを同時に行った場合であっても、

 

「注1」、「注2」、「注3」及び「注4」の加算は1回のみに限られる。

 

() 「注3」、「注4」及び「注5」に掲げる加算は主たる加算を患者1人につき月1回に 限り算定する。

 

() 心筋生検を行った場合は、区分番号「D417」組織試験採取、切採法の所定点数を 併せて算定する。 

 


急性心筋梗塞のPCIまでの時間

 

急性心筋梗塞(ST上昇型)の治療は発症後可能な限り早期に再灌流療法をおこなうことが生命予後の改善に重要です。現在、発症後12時間以内の場合に早期再灌流療法が適応とされています。再灌流療法は主にバルーンやステントを使用したPCI(経皮的冠動脈インターベンション)が行なわれます。

 

胸痛あるいは胸部圧迫感が出現してから再灌流療法をうけるまでの時間は、病院到着までの時間と病院到着後から再灌流までの時間に分けられます。前者には患者さんが救急車を呼ぶまでの時間や救急車が迅速に再灌流療法を施行できる病院へ搬送する時間が含まれます。病院到着(door)からPCI(balloon)までの時間は、急性心筋梗塞と診断し緊急心臓カテーテル検査と治療のためのスタッフとカテーテル室の準備、さらにPCIの手技までが含まれる複合的な時間であり、door-to-balloon時間としてその施設での急性心筋梗塞治療のqualityを表す指標のひとつです。このdoor-to-balloon時間が90分以内であること、あるいは90分以内に再灌流療法が施行された患者さんの割合が50%以上という指標が急性心筋梗塞の治療の質の向上として挙げられています。


冠動脈インターベンション後の抗血小板療法

 

■概要

 冠動脈インターベンション(PCI)ではそのほとんどにステントが留置される。ステントは血管内異物となるため、血小板凝集が惹起されて血栓を形成し、ひいてはステントの閉塞をきたす原因となる。ステント血栓症はときに致命的となるため、その予防のため強力な抗血小板療法がおこなわれる。

 

■抗血小板療法の実際

 1DAPTdual antiplatelet therapy)の確立

 当初はワルファリンとアスピリンの併用がなされたが、ステント血栓症防止効果が不十分のため、より有効なアスピリンとチエノピリジンの併用(DAPT)が行われるようになった。現在ではアスピリンとクロピドグレルの併用がステント留置後の標準的治療とされている。

 2DAPTの期間

 ステント表面を新生内膜が被覆するとステント血栓症は発生しにくくなる。1か月ほどで被覆される通常のステント(BMS: bare metal stent)と異なり、薬剤溶出性ステント(DES: drug eluting stent)では薬剤の細胞増殖抑制作用により、ステント表面の被覆が遅れるため、長期間の抗血小板療法が必要である。これを踏まえ、内外のガイドラインではDAPTの期間をBMSでは1か月、DESでは12か月程度と提示している。なお、最新のDESではステント血栓症の頻度が大きく減少しており、DAPTの期間を6か月程度に短縮できる可能性が示されている。

 3DAPTの注意事項

 アスピリンに合併する消化管出血はPCIの予後不良の因子として挙げられていることからこの対策は重要である。特に頻度が高い上部消化管出血の予防対策としてPPI(プロトンポンプ阻害薬)を併用することが推奨されている。

 4)新しい抗血小板薬とDAPT

 アスピリンの併用薬として2種類(プラスグレルとチカグレロール)の新薬が用いられる。作用機序は異なるが、いずれもクロピドグレルよりも効果の発現が早く、また抗血小板作用の個体差が少なく、欧米では特に急性冠症候群に対する使用が推奨されている。なお、プラスグレルは欧米の治験では出血性合併症が問題とされたが、日本では用量調節の結果、出血性合併症のリスクが高まるとのデータは示されていない。なお、後者は現在承認まちの状態にある。

 

DAPT終了後の抗血小板療法

 DAPT終了後はアスピリンの半永久的投与が推奨されている。なお、アスピリンの出血性合併症が再評価されており、消化管出血の対策としてPPI(プロトンポンプ阻害薬)の併用が推奨されている。また、クロピドグレルの代替単独投与も検討されている。

 

■課題

 

 心房細動合併例など抗凝固薬を投与中の患者ではDAPTを併用すると出血性合併症が多発する。この対策として3者の併用期間を可及的に短くすることや、アスピリン抜きの併用療法などが検討されている。なお、NOAC(経口トロンビン阻害薬、経口活性化凝固第X因子阻害薬)とDAPTの併用については今後の課題である。